清風にまつわる禅語
投稿者 :翁志刚 on
1.葉々起清風
「葉々起清風」の原典
虚堂禅師が住んでいる所に三人の客が訪れていました。
かつて弟子や仲間だった友人です。
その三人が、遥か遠い遺跡を目指して旅立つことになりました。
当時のこと、遠くへの旅は安全の保証はないでしょうし、
年齢的にも若くはなく、また会えるとも限りません。
その最後の別れの挨拶をすませた後、
虚堂禅師は三人を門のところまで見送りに出ました。
その時、
竹の葉が涼やかな風にサラサラと鳴るのを聞き、言いました。
「為君葉々起清風」
「あなたたちのために竹の葉がさわやかな風を起こしている」
竹までもあなたたちとの別れを惜しんでいるかのよう。
別れの寂しさ、旅の安全を願う気持ち。送る者、送られる者の様々な感情が感じられる言葉です。
「葉々起清風」の意味
「葉々起清風」の意味は、言葉としてまず訳すると下のようになります。「竹の葉がさらさらと鳴り、さわやかな風を生み送ってくれる」さらに原典の意味を読み取ることで、さらに「葉々起清風」の禅語を深く読み取れます。
原典では、友との別離の場面で、「為君葉々起清風」(あなたのために竹の葉がさわやかな風を起こしている)とありました。
この場面には、別れの清らかさ、ということが感じられます。竹の葉が風に吹かれサラサラとなっているのを、旅立つあなたのために竹の葉が清風を起こしているのだ、とはなんとも清らかで美しいです。
お互いが相手のことを思い合いつつ、感情のままに振る舞うのでなく、さわやかに最後の別れの時を迎えています。
別れの時というのは、様々な感情が溢れてくるものです。
2.【禅語】 下載の清風
下載清風は有名な公案集の碧巌録の中に出てくる言葉です。全ての存在や理は一つに帰するがその一つはどこに帰するのかと修行者から訊かれた趙州禅師が、青州にいた時に七斤(約4.2kg)もある重い上着を作った事があると返答します。いかにも禅問答らしい一見すると意味不明の対話ですが、その解説として、かつて畳み掛けるように質問を受けた趙州だがその上着の重さの意味を知る人は何人いただろう、今やそんな物は西湖に捨ててしまった、荷物を下ろしてしまった後の清々しい風を誰に伝えよう、という歌が加えられています。
また、禅宗の歴史書である五灯会元にも宋代の禅僧の五祖法演の話として次のようなものがあります。五祖法演の師である白雲が道場にいる既に悟った修行者のことを未在(ダメだ)と評します。その理由が分からなかった五祖法演がある日突然、自分の得た悟りにこだわるのを捨てて師と面談したところ、白雲はたいそう喜んだそうです。後に五祖法演はこの時の状態を評して下載清風と言っています。なおこの五祖法演は法演の四戒の回にお話したあの法演です。
下載清風は荷物を下ろした身軽になった帆船が風を受け気持ちよく進む様を示しており、思い込みや執着をすてた正見の状態と言えるのかと思います